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ドンキーコング / FC

 当時、キャラクタがジャンプするというゲームは珍しかったように思う。

 
 ドンキーコングは、ボタンを使ってキャラクタをジャンプさせ、転がってくる樽を避けたり、足場の無いところを飛び越えたりしながら、ゴールを目指すゲームである。たった1ボタンのアクションであるが、それが敵を避ける手段となり、移動する手段となっているのだ。
 
 ひとつのシンプルなアクションに、複数の意味を持たせるゲームデザインは美しい。非常に洗練されたゲームシステムである。しかし、操作は簡単ながら、ドンキーコングでのプレイヤーキャラクターの動きは多彩である。レバーとの組み合わせ、ステージのギミックや地形の影響で、思わぬジャンプをしたり、見事な三角飛びを披露したりしてくれる。この『シンプルだけど多彩』という奥の深さがドンキーコングの魅力であり、わかりやすい操作系統を用いたからこそ、万人に受け入れられ、大ヒットゲームとなり得たのである。

 
 さて、ファミコン版のドンキーコングである。容量の都合なのか、先に発売されたアーケード版から、いろいろなところがオミットされている。そもそも、アーケード版の2面にあたる『50m』の面がまるごと削除されているし、ゲームを始めるとドンキーコングがレディをさらっていくデモも無い。面クリア時には、ドンキーコングが次の面へレディを連れ去っていく動作をするはずが、ファミコン版はBGMだけが鳴り、何の動きもない。全面クリア時の音楽も2種類あったはずが、ファミコン版では1種類しかない。いろいろ無くなっているのである。
 
 それは残念なことであるし、当時の自分は、「家庭用だから仕方ないか」という印象で受け止めていたように思う。しかし、それでも、ドンキーコングファミコンソフト史上に燦然と輝く名作であるのだ。それは、ひとつには、ファミコンの家庭用テレビゲームとしての表現力が、それまでのゲーム機(例えば同社のブロック崩し、トミーのぴゅう太エポック社カセットビジョン等)と比較して抜きん出ていたことによる。(すなわち、極めてゲームセンターに近いゲームが家で遊べたのである!)それにもよるのだが、何と言ってもドンキーコングの洗練されたゲームシステムと、奥深い動きを実現したプログラムが、ファミリーコンピューターという家庭用ゲーム機を通じて家庭のリビングに入り込み、それまでゲームセンターに通うマニアのみの楽しみだったビデオゲームが、世間一般の人々の手に触れるという現象が起きたときに、爆発的な人数の人々に受け入れられる結果となったのである。
 
 ドンキーコングはもちろんゲーセンでヒットしたからこそファミコンの最初のソフトに選ばれたのだろうが、もともとこのゲームが持っていた、万人が楽しめる優れたゲームデザインが、家庭用としてもマッチしたのであろう。ちなみに、散々ゲーセンでプレイした僕は、アーケード版とはBGMや効果音の音質が微妙に異なることを感じつつも、家でこれだけ遊べるのはすごいなあ、と感心したものである。誰もが納得するゲーム、それがドンキーコングだったのではないだろうか。