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タクティクスオウガの時代 〜スーパーファミコンにおける戦術級ウォーゲームの傾向

 昨年(2016年)3DSのバーチャルコンソールで、タクティクスオウガが配信された。説明するまでもなく、スーパーファミコン時代を代表する名作シミュレーションゲームだ。ぼくは、このゲームを発売当時に入手しながも、結局クリアしていなかった。そこで、今回3DSバーチャルコンソール版をダウンロードして遊んでみることにした。

 
 実を言うと、タクティクスオウガは、スーファミ版で遊んだだけでなく、その後セガサターン版、PlayStation版など、移植版が出るたびに買って遊んでいたのだが、その度に挫折し、結局クリアしないで投げ出してしまっていたという因縁のゲーム(?)でもあるのだ。さて、今回の3DSバーチャルコンソール版タクティクスオウガ、まるごと保存機能を使って今度こそクリアできるのか、それともまた挫折するのか……ゲームのプレイを進めつつ、同時にタクティクスオウガが名作たる所以を、当時のシミュレーションゲームの発売状況などを俯瞰しながら考察していきたいと思う。(そうすることで、自らのタクティクスオウガに対するモチベーションを上げる目的もあったりするのだが……)

 
 タクティクスオウガの発売は95年10月。スーパーファミコンの発売が、90年11月なので、ゲームハードとしては円熟期にさしかかり、歴史的な名作も出そろってきた時期である。そんなとき発売されたタクティクスオウガであるが、いきなりこの名作と呼ばれるゲームが彗星のごとく現れたわけではない。タクティクスオウガには、伝説のオウガバトルという偉大な前作が存在する。伝説のオウガバトルの発売は93年3月。その登場は衝撃的で、クエストという名前も聞いたことのないメーカーから、上質なヴィジュアルとサウンドを携えた、ひと味違うゲームが登場した印象であった。今ではあまり珍しくないリアルタイムストラテジー(RTS)のゲームシステムも、当時としてはそれほど普及しているスタイルではなく、特にコンシューマでは、半熟英雄辺りが中堅どころのRTSとして認識されているぐらいで、他にはほとんど見当たらず、物珍しかった。

 
 そんな「ひと味違う」伝説のオウガバトルの続編として鳴り物入りで登場したタクティクスオウガだけに、ユーザーの期待も大きかったし、実際それに見合った売り上げを達成している。タクティクスオウガの販売本数は50万本とも言われているが、ファイアーエムブレム聖戦の系譜の販売本数49万本と比較するとそのすごさがよくわかる。もちろん、販売本数だけで名作と決まるわけではない。ここではそれよりも、ゲームの内容にこそ注目したい。

 
 タクティクスオウガは、前作伝説のオウガバトルのリアルタイムストラテジーという目新しいシステムを捨てて、むしろオーソドックスな非リアルタイムのウォーシミュレーションに生まれ変わったことが大きな意味を持っている。伝説のオウガバトルでは、RTSという性格上、多くのユニットが慌ただしくマップ内を移動し、ときには自分の意図しないところで戦闘行動を起こしたり、場合によっては、いつの間にか大事なユニットが死に至ったりしている場合もある。ともすると、重要なキャラクタが、どこで何をしているのかよくわからないままゲームが進行してしまうこともある。しかし、タクティクスオウガは非リアルタイムのゲームだからこそ、ひとつひとつのユニットの行動を熟考し、自分で納得いった選択をすることができる。これによって、主人公ユニットを含めて、部隊の一人ひとりがどのような戦術で動くかを、プレイヤーが意図的にコントロールしつつゲームを進めることができるのだ。

 
 この、ユニットを能動的かつ意図的に動かすことを重視した設計は、タクティクスオウガのキャラクターメイキングにも現れている。ゲームを始めるときに、主人公のパラメータは、ちょっとした質問に答えることで多少のバリエーションが生まれてくるが、基本的には同じ立場の、同じキャラ絵の主人公であることに変わりはない。ところが、主人公とともに戦う一般兵士は、ゲーム中のショップでお金を出して雇うのである。感覚としては、名も知らぬ傭兵を雇って戦ってもらうというのが近い。彼らはあくまで駒のひとつとして動かされるだけであり、物語やイベントに参加することはない。もちろん、伝説のオウガバトルにおいても、一般兵士が固有の行動を取ることはないのだが、固有の名前を持った重要キャラクタと、その他大勢の一般兵士の区別はほとんどない。タクティクスオウガでは、戦闘行動中であっても、重要キャラは突如セリフを語り出し、それによって物語が語られる。このシステムは、ファイアーエムブレムや、RPGで言えばファイナルファンタジーなどでもおなじみのシステムで、珍しくもないものと言えるが、伝説のオウガバトルという前作を持つタクティクスオウガにおいては、前作から大きく方向性の変更が行われたことは明らかだ。これは製作者の、よりストーリーを前面に押し出したいという意思の表れであるように感じ取れるし、実際プレイする側としても、タクティクスオウガの、人と人とのやり取りを重視した物語の妙を楽しむことができる。

 
 一方、伝説のオウガバトルからキャラクターデザインを担当した吉田明彦の絵にも大きな魅力がある。吉田の絵は、かわいらしく、どこか親しみやすい絵柄でありながら、そのタッチはあくまで静謐で、落ち着いた雰囲気を醸し出している。この絵柄がまた、伝説のオウガバトルや、タクティクスオウガのハードなファンタジーにフィットしているのである。こうしたヴィジュアル面も含めて、魔王やドラゴンを退治する単純なファンタジーからの脱却、成熟したプレイヤーにも十分に楽しめる、大人の物語という世界観を伝えようという意思が伝わってくる。(ちなみに、タクティクスオウガや伝説のオウガバトルにおいては、ドラゴンすらも単なるユニットのひとつでしかない)

 
 ところで、タクティクスオウガが発売された当時、スーパーファミコン向けにどのようなシミュレーションゲームがリリースされていたのかということにも注目してみよう。
 多くのゲームが発売され、コンシューマゲーム機としては、圧倒的なシェアを誇っていたスーパーファミコンであるから、実に多様なゲームが発売されていたのだが、タクティクスオウガと同じファンタジーを題材としたシミュレーションゲームということになると、意外にその種類は少ない。思いつくタイトルを列挙してみると、ロードモナーク、スーパーロイヤルブラッド、半熟英雄(ああ、世界よ半熟なれ)、ドラゴンズアース、伝説のオウガバトル、ファイアーエムブレム 聖戦の系譜、魔神転生、ファーランドストーリー、デアラングリッサー、バハムートラグーン…辺りがメジャーなタイトルか。特に、タクティクスオウガと同じ、戦術級かつ、じっくりと考えられる非リアルタイムのウォーゲームということで見ていくと、ファイアーエムブレム、魔神転生、ファーランドストーリー、ラングリッサー等にしぼられてくる。ゲームとしてはオーソドックスな印象のあるタクティクスオウガであるが、実はスーパーファミコンのタイトルとしては、意外と珍しいタイプのゲームだったのである。私見ではあるが、それぞれのタイトルを遊んでみて、ゲームのボリューム、完成度から見てタクティクスオウガと対等に渡り合えるゲームとしては、ファイアーエムブレムぐらいしか無いだろう。そう考えると、じっくりと考えながらプレイできる戦術級ウォーシミュレーション。しかも、戦争や政治を扱ったシリアスな世界観のゲームというポジションを埋めるタイトルは、当時のスーパーファミコンのソフトには皆無だ。そこのニーズに応える形で、タクティクスオウガはファンの支持を得たのである。

 
 ゲームデザイナーの松野泰己に対するインタビューを4Gamerが行っているが、実際そこで松野は「ニッチなジャンルを選んだ」と語っている。そのニッチなジャンルを求める層が、スーパーファミコンのユーザーに少なからず存在し、その心をがっちりつかんだ形でのヒットが、タクティクスオウガというゲームのヒットにつながったというわけである。
www.4gamer.net
 さて、問題のぼくのプレイするタクティクスオウガであるが、現在無事Chapter1を終わらせ、いよいよ物語が盛り上がってきたところである。まるごと保存機能の恩恵も大きいが、スーパーファミコンの歴史におけるタクティクスオウガというゲームの置かれた位置と、その志の高さを顧みるに、何が何でもこのゲームをクリアして、壮大な物語の終焉に立ち会ってみたいと思うのである。