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EDGE OF INSANITY / TONY MACALPINE

 当時の速弾きシーンで三羽鴉の一角を担っていたトニー・マカパインのデビューアルバム。
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 トニー・マカパインという人は、昔(デビュー前)からひとりで曲を作ることが好きだったようで、バンドに参加してプレイする一方で、自分でインスト曲を作ってはデモテープとしてレーベルに送ることをしていたようだ。結局、その一匹狼的気質は現在まで続くこととなり、それがいまひとつビッグに売れなかった理由でもあると同時に、かれの唯一無二の個性を殺さずに今日までギターインストを発表し続ける原点となったことは間違いない。
 
 このデビュー・アルバムはすべてがインスト曲で構成されている。ビリー・シーン(b)とスティーヴ・スミス(ds)という2人のスーパープレイヤーを迎えて、シンプルに作られたアルバムだ。それだけに余計な要素の入り込む余地がなく、純粋にトニー・マカパインのサウンドとプレイが凝縮されていて、実に潔いクラシカルでメロディアスなインストナンバーが揃っている。おそらく、この手の、後にネオクラシカルと呼ばれる楽曲を楽しみたい人にはこの上なく心地よいアルバムとして完成されているのではないだろうか。
 
 しかも、トニー・マカパインの場合、単に速弾きがすごいというだけでなく、楽曲によってギターのトーン、プレイのニュアンスを適切に当てはめていくセンスに秀でており、自分の表現したいサウンドのための演奏法を実現するためのスキルがものすごく高い。具体的に言えば、アルバムのオープニングを飾る疾走ネオクラシカルの名曲"Wheel of Fortune"ではフルピッキングによるパワフルな音を聞かせてくれる一方で、しっとりと語りかけるようにひとつひとつの音を爪弾く"Agrionia"のような曲との対比が実に鮮やかなコントラストを為している。演奏も正確で、入り組んだパッセージでも、難しいスウィープでも音の破綻なく弾きこなしてしまうため、曲としての表現に説得力がある。(下手なギタリストが、無理な速弾きをすると、聞いている方はハラハラしていしまい、とても表現云々まで行かないものだ。)
 
 それに加えて、初期のトニー・マカパインの曲調は実にかっこいい。若気の至りゆえの、わかりやすすぎる楽曲という辺りがもしかすると鼻につくかもしれないが、いやいや、HM/HR好きな人間は、こういうわかりやすくてかっこいいフレーズを必ず心の底で求めているものである。そのヘヴィメタルを聞くものの原点とも言える欲求にダイレクトに答えてくれるのがこのアルバムである。
 
 もちろん、歌ものの方が聴き応えがあるとか、全部インストは飽きるとか、そういう批判も耳にしたことはあるが、ここは純粋に音楽を楽しみたいではないか。昔、ぼくの友人に聞かせたら「ゲームミュージックみたいだ」言われたことはあるが、なるほど、2曲目"The Stranger"辺りは某シューティングゲームがフレーズを拝借している節はある(笑)
 
 アルバム終盤に挿入されるピアノ曲もトニー・マカパイン自身のプレイで、これもまた上手い。天は二物を与えたとはこのことだ。
 
 蛇足ではあるが、スティーヴ・スミスと言えば、JOURNEY時代のPV"Separateways"で、エアドラムをやっている髭の姿が印象的で、これまたゲームつながりでそんなことを思い出したりして…まあ、それはどうでもいいか。

 

 
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