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パックランドでつかまえて / 田尻智

先日購入したのを読了。

 
「一エリアの終わりにある敵建造物ボザログラムを、ある決まった順序に添って撃ってですね、森の中にある隠れレーザーを発見します。それを爆破させると、タランチュラと呼ばれるクモ状の怪物キャラクターが現れ、糸を吹きつけてきます。その糸に引っかからずに進んで行くと、今度は、巨大要塞アンドア・ジェネシスの小型版のようなものが現れ、まるでこの世の終わりのような攻撃を仕掛けてきます。それはそれは凄まじいといいます。そして、このあとついに敵の惑星ゼビウスがその姿を現し、事態を終局へ向かうというのですよ」
 
エッセイとも小説ともつかない不思議な文体は、ゲームセンターで様々なジャンルのゲームが、固まる前の溶岩のように煮えたぎり、形を変え、そして進化していたあの80年代を表現するのにぴったりだ。
 
ゲームではハイスコアを出したやつがかっこいいんだ!とばかりにゲームにのめり込む主人公(田尻智)が、少年期の不確かな人格形成の中で出会うゲームと、その背景にある物語を上手に融合させて、読みやすく描いたストーリーは、当時のゲームセンターの雰囲気を知るものには、水が渇いた土に染み込むかのように、自然に頭のなかに入ってきて、その情景が思い浮かぶかのように読める。そして、自分の地元ではない、(当時は遠くて行けなかった)どこか遠くのゲーセンで叩き出されたスーパースコアに思いを馳せる描写は、ぼくたちの世代には本当にリアルで、つい昨日までそこにあった現実のように感じることができる。
 
この本自体は、1988年〜1989年に連載されたものを書籍化したものであるが、それから30年が経とうとする今読むと、また別の感慨を持って受け止めることができるのではないだろうか。当時をリアルタイムに体験したから偉いとか、それを知らない者に、この本の機微を理解できないとか、そんなことを言うつもりはない。それでも、当時のゲーセンの雰囲気を知るものには特別な感情を伴って読むことができる1冊なのだ。
 
文章は若干若々しい。