『時をかける少女』を見たので、こんなのを読み直してみたり。
『時をかける少女』の原作は正直言って古くささが否めない部分が多いのだが、こっちはそれなりに読める。まぁ、時代を感じさせる表現はあるのだが、『芳山君』(笑)みたいな露骨に古くさい言い方は見られない。
まぁ、それはともかく、七瀬を通して語られる8組の家族の姿は、どれもが醜悪な人間のエゴの塊である。あまりに醜く描かれる登場人物たちに、ともするとこんなひどい家族はやっぱり物語の中にしか存在しないと思わせられがちだが、ふと思い返すにつけ、いや実は人間同士のコミュニケーションにおいてその表層を覆う薄皮を剥がせば、その中身は誰でもこんな醜悪な本心を持っているのだということを嫌と言うほど気づかされる。
それを語るための小道具が七瀬の超能力であるわけで、そういう意味では主人公七瀬の存在感は薄い。それだけ各エピソードの登場人物の奥底にあるものが掘り出されているということであるが、読み返して実に巧みな手法だと思わせる。今読んでもすごく面白い作品だ。
もちろん続編の『七瀬ふたたび』におけるサイキック小説っぷりも好きなんだけどね。
- 作者: 筒井康隆
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1975/03/03
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